保険のホルモン補充の凍結胚移植は腟錠なしで可能なのか ?

 

保険でホルモン補充の凍結胚移植を計画する時に

「腟剤は使いたくない。飲み薬だけでなんとかならないのか」

とよく質問されます。

 

結論から言いますと、腟剤を使用したほうが良いです。

少なくても現在の状況ではとお話ししております。

 

ホルモン補充周期の黄体補充で自費で当院では

デュファストン(飲み薬)

 

 

ルトラール(飲み薬)

 

 

ルテウム(腟剤)

 

 

ルティナス(腟剤)

 

 

プロゲデポー(注射薬)

 

 

内服、腟剤、注射の3つの併用もしていましたし

腟剤を使用したくない場合は判定日まではルトラールのみ

それ以降はデュファストン+2-3日間隔のプロゲデポーの注射を行っていました。

※現在も自費の患者様は上記可能です。

詳細は下記記事を参照ください。

ルトラールとデュファストンの違いは?~ホルモン補充での使い分け方~

ルテウムとルティナスの違いは?ホルモン補充周期の凍結胚移植において

より良い黄体ホルモン薬の使い方~胚移植において~

 

しかし、保険では

ルトラールは使用不可(胚移植日までしか使えないので、実質的に不可と同じ)

プロゲデポーは生産中止となったため、メーカーが保険での使用申請せず。

※輸入の原材料の高騰に伴い、薬価の安い日本では作れないそうです。

 

なので、胎児への安全性は高いけれど効果が弱いと考えられている

デュファストンだけで黄体補充が足りるのかが争点になります。

※自然周期および新鮮胚移植は体内から黄体ホルモンが出ているので、デュファストンのみで大丈夫です。

 

エストロゲン製剤のエストラーナテープはホルモン採血で過不足がわかりますが

デュファストンは合成の黄体ホルモンのためテープと違い

通常の黄体ホルモンの採血には反映されません。

そのためデュファストンのみで大丈夫なのかはわかりませんでした。

 

今回ご紹介する論文は通常行えないデュファストンの血中濃度を測定し、デュファストンのみで十分かどうか調べた論文です。

 

 

初期胚41周期、胚盤胞157周期のホルモン補充の凍結胚移植を解析。

黄体補充にはデュファストン30mg(1日6錠)のみを使用。

デュファストン及びデュファストンの代謝物と妊娠率の関係を調べています。

 

結果です。

 

 

デュファストンの濃度が低い(下位1/4)と妊娠継続率は有意に低下しました。

低い初期胚 0%(0/9)、低い胚盤胞 8%(3/40)

高い初期胚 31.2%(10/32)、高い胚盤胞 27.4%(32/117)

 

ただ、デュファストンの血中濃度は患者ごと、さらには治療周期ごとでかなり違いました。

また、デュファストンの血中濃度が低くなる方の特徴も調べましたが

体重と弱く相関するのみでした。(BMIとは相関せず)

 

筆者らはデュファストン30mg(6錠)/日のみで黄体補充を行うことは

・一部の患者さんにとっては最適でない可能性であること

・30mg/日以上の高容量ないし他の薬剤との併用の検討が必要

を指摘しております。

 

私の考えです。

腟錠は煩わしいですし、使用したくないというわかるつもりです。

ただ、やはり保険で認められているデュファストン30mg/日のみでは、厳しいかなと思いました。

 

デュファストンの体内への吸収が良いかどうかが

・患者様ごと、治療周期ごとに違う

・通常の診療では血中濃度の測定ができないため

ギャンブルになってしまいます。

 

貴重な胚を用いてのギャンブルは避けたいです。

より良いホルモン環境を整えることが

妊娠率、生産率の向上につながりますので

ホルモン補充周期の場合は腟錠の投与をお願い致します。

 

当院では腟錠はルテウムとルティナスを採用しております。

下記記事を参照ください。

ルテウムとルティナスの違いは?ホルモン補充周期の凍結胚移植において

また自然周期でしたら腟錠は使用する必要はありません。

下記記事を参照ください。

凍結胚移植周期 説明編 ~自然周期 vs ホルモン補充周期~

 

院長 菊池 卓