初期胚(分割胚)と胚盤胞の違いは?妊娠率は?どっちが良いのか?

初期胚(分割胚)と胚盤胞の違いは?

 

採卵をする前にご夫婦で

考えてきて欲しいことがあります。

 

その中の1つが

・初期胚(採卵後2~3日目)

・胚盤胞(採卵後5~6日目)

どちらのステージ、もしくは両方で凍結させるかです。

 

胚(受精卵は)下記のイラストのように

卵管内を5~6日かけて初期胚→胚盤胞に育ち

子宮内に着床します。

 

 

選択肢としては

・初期胚のみ

・初期胚(1~2個)+胚盤胞(残り全て)

・胚盤胞のみ

から選んでいただくことになります。

 

当院の基本的な方針は

たくさん卵子が採れた方は

全て胚盤胞

※過去の治療歴で胚盤胞までなりにくい方や胚盤胞移植の失敗歴がある方には初期胚凍結を加えることも検討。

 

卵子があまり採れなった方は

まずは分割胚を凍結で余力があれば胚盤胞

※初期胚移植の失敗歴がある方や胚盤胞移植を患者様が望まれる時には胚盤胞培養のみを検討。

にしております。

初期胚(分割胚)のグレードとは?

 

初期胚(分割胚)は上記のように評価されます。

G1が最も良く、G4が最も悪いです。G1>2>3>4

分割のスピードやフラグメントの量で評価します。

分割のスピードが遅いほど、フラグメントが多いほど評価は悪くなります。

※フラグメントとは、受精卵が細胞分裂の時に生じる小さな細胞の断片です。
胚盤胞のグレードとは?

 

胚盤胞は上記のように評価されます。

AAが最も良く、CCが最も悪いです。

※1~6の数字は気にされないでください。

4を6まで育てることは簡単にできるのですが、3~4の方が凍結させやすいです。

そのためにあえて3~4の段階で凍結させています。

 

下記の記事もご覧ください。

胚盤胞のグレードは妊娠・出産に関係ある?それともない?

初期胚(分割胚)と胚盤胞の妊娠率は?

上記は当院の凍結胚移植の成績です。

 

胚盤胞の方が全年齢において妊娠率が高いです。

35~39歳の方ですと

・初期胚で38.1%

・胚盤胞で52.7%です。

 

下記の記事に詳細があります。

菊池レディースクリニック2024年を含めての治療成績・実績 

 

体外環境で胚盤胞まで育つ方は、胚盤胞移植のほうが良いと考えます。

初期胚(分割胚)の良さは?

では、初期胚は胚盤胞の劣化品なのでしょうか

胚盤胞まで育たなければ、移植をする意味はないのでしょうか

それは違います。

 

初期胚には初期胚の良さがあります。

できるだけ早く、お母さんの子宮に戻すことがメリットになります。

 

胚盤胞で何回移植しても妊娠しないけれど、初期胚にしたらすぐに妊娠したというのは、自分の経験として何回もあります。

 

ただ、自分の中の経験に留まっており、体外培養と体内培養の比較は難しいため、どちらが優れているのかはわからないままでした。

 

それを行ったのが下記の論文です。

 

 

卵巣刺激を行い

・通常の体外受精をした胚盤胞の群と

・人工授精を行い、子宮を洗浄して胚盤胞を回収した群

を比較しています。

 

子宮内を洗浄してお母さんの卵管と子宮で育った胚盤胞を回収するという、正直想像もできない手法を行っており、この論文が出たときには衝撃を受けました。

 

洗浄の器具です。(論文より抜粋)

 

 

洗浄をして胚盤胞を回収しているエコー画像。

 

 

比較の対象は

・胚盤胞の遺伝子の正常率

・胚盤胞の形がきれいかどうか

を比較しております。

 

遺伝子の正常率

体外 51% vs 体内(人工授精) 54%

と有意差はありませんでした。

 

ただ胚盤胞の形については

同じ女性で両方を行った20周期において

良好胚盤胞(形がきれい)は

体外 43.3% vs 体内(人工授精) 68.1~71.2%

(見た目は主観的な指標のため平均的になるよう複数の培養士が判定)

と体内で発育した胚盤胞の方が

形はきれいという結果でした。

 

形のきれいさは妊娠率や流産率に関与すると考えられます。

 

また、体外環境で胚盤胞まで育たない方に

胚盤胞培養をこだわっていると

いつまでも移植ができなくなってしまいます。

 

獲得卵子数が少ない方や体外環境で胚盤胞になりにくい方は、初期胚(分割胚)で戻すことをお勧めします。

結局どっちが良いの?

こちらはアメリカ生殖医学会の診療委員会報告です。

 

予後が良好(卵子数が多い等)な患者においては、胚盤胞の方が初期胚の移植に比べて、高い生児出産率が得られている。

 

予後が不良(卵子数が少ない等)な患者においては、胚盤胞は初期胚の移植と比べて生産率の上昇をもたらさない。

※胚盤胞を形成する能力は患者ごとに大きく異なり、回収できる卵子の数も大きく異なる。

※胚盤胞培養は、時に胚盤胞までの発育が得られず、移植に用いる胚が全く得られないというリスクもある。

と報告しております。

 

初期胚と胚盤胞のどちらを患者様に勧めるかは、患者様の状態を考え、個別に相談していかなければなりません。

 

胚盤胞培養の気になる副作用としては、双胎率の上昇等がありますが、子宮外(異所性)妊娠は低下します。

 

以上より

当院の基本的な方針は

たくさん卵子が採れた方は

全て胚盤胞

※過去の治療歴で胚盤胞までなりにくい方や胚盤胞移植の失敗歴がある方には初期胚凍結を加えることも検討。

 

卵子があまり採れなった方は

まずは分割胚を凍結で余力があれば胚盤胞

※初期胚移植の失敗歴がある方や胚盤胞移植を患者様が望まれる時には胚盤胞培養のみを検討。

にしております。

 

正直迷うところもあるかと思います。

悔いの無い選択をしていただきたいですし、いつでもご相談ください。

 

院長 菊池 卓