採卵結果が思わしくない場合、刺激方法は変えるべき?〜同じ方法で好成績という論文から考える〜
「今度こそ、1回目の採卵でうまくいってほしい!」
患者様の切なる願いは、私たちも同じです。しかし、残念ながらすべての患者様が一度で良い結果を出せるわけではありません。
以前のブログでもお話ししたように、採卵の要となる卵巣の刺激方法にはいくつか種類があります。多くの患者様は、「前回とは違う方法を試したい」と希望されますし、実際に方法を変えると喜ばれることも実感しています。
ただ、今回ご紹介する興味深い論文では、あえて前回と同じ刺激方法を続けた方が、採卵成績が良かったという結果が報告されています。
この研究は、1年以内に1回以上採卵を経験した4,458名を対象に行われました。
2回目の採卵で、約半数(49%)が前回の刺激法を継続し、残りの半数(51%)が別の刺激法を選択しています。
比較されたのは、以下の項目です。
・獲得卵子数
・受精率
・胚盤胞到達率
・利用可能な胚の数
・正常胚率
論文によると、獲得卵子数が平均で2.2個増加しました(ただし、Flare法以外の場合)。さらに、受精率が2%向上、利用可能胚が0.2個増加するなど、わずかではありますが改善が見られました。
この改善の理由として、著者らは以下の点を挙げています。
・医療者側の視点: 薬への反応は個人差が大きく、実際に投与してみて初めてわかることもあります。1回目の採卵で得られた患者様の反応に関する「洞察」を、2回目の採卵で活かせるため、結果的に成績が向上する。
・患者様側の視点: 薬剤の投与に慣れることでストレスが減り、また、薬の反応が良くなる「プライミング効果」が期待できる。
【プライミング効果とは?】 「プライミング効果」とは、以前の経験や刺激が、その後の行動や反応に無意識のうちに影響を与える現象のことです。採卵においては、前回の卵巣刺激で体が薬剤に触れることで、次回の刺激時に卵巣が薬に対してより感受性が高まり、効率的に卵子が育ちやすくなる可能性が考えられます。
私の考えです。
採卵の結果が思わしくない時、患者様には大変申し訳なく思いますし、次こそはと対策を徹底的に考えます。
その結果、「あえて同じ卵巣刺激方法」を選択することもあります。ただし、薬剤の投与量や刺激日数、受精方法などは、患者様一人ひとりに合わせて、より最適なものへと細かく調整しています。
そのおかげか、本来なら年齢を重ねるごとに不利になるはずなのに、次の採卵で前回よりも良い結果を出される患者様を何人も経験してきました。
もちろん、何も考えずに漫然と同じ方法を繰り返すのは避けるべきです。しかし、深く考察した上で同じ方法を繰り返すことは、患者様の「プライミング効果」など、良い効果を引き出す可能性を秘めています。
もし、検討を重ねた結果「同じ方法が良い」と判断した場合は、細部は変更しつつも、あえて前回の刺激方法を継続することをご提案させていただくこともあります。
下記の記事もよろしければ参照ください。
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院長 菊池 卓

静岡県静岡市の不妊治療専門クリニック、菊池レディースクリニック院長。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医、特定不妊治療費助成事業指定医療機関。刺激周期を主体としたクリニックと自然周期を主体としたクリニックの2箇所に勤務経験あり。患者様のご希望と体質に応じた治療を行っていきます。