採卵後の凍結胚移植、いつがいい?~「すぐに移植しても大丈夫」と言える理由~

 

こんにちは、菊池レディースクリニック院長の菊池です。

 

採卵という大きなステップを乗り越え、いよいよ胚移植へ進むとき。
多くの患者様が「移植のために、1周期は体を休ませないといけない」とお考えではないでしょうか。「休まないと妊娠率が下がってしまうのでは…」と、ご不安に思われる方もいらっしゃるかもしれません。

 

今回は、約4年前に書いたこのテーマに関するブログを、最新の情報を加えてアップデートしています。当院では、ほとんどの方に採卵翌月の胚移植をご提案していますが、時々「すぐに移植して本当に大丈夫ですか?」とご質問をいただくことがあるため、改めて当院の方針とその医学的根拠を詳しくご説明したいと思います。

 

お休み期間は、本当に必要?

かつては、採卵によるホルモン変動や体への負担を考慮し、1周期以上のお休み期間を設けてから凍結胚移植を行うのが一般的でした。しかし、その「常識」に対して、近年新しい見解が次々と出てきています。

 

「むしろ、すぐに移植した方が良い結果だった」という報告

まずご紹介するのは、2021年に発表されたランダム化比較試験の結果です。

 

 

ホルモン補充周期にて凍結融解胚移植を行った724人を対象に、

  • 採卵翌月にすぐ移植したグループ(Immediate group)
  • 採卵翌々月以降に移植したグループ(Delayed group)

にランダムに分けて、その後の妊娠成績を比較しました。

 

その結果がこちらです。

 

 

生産率(実際に赤ちゃんが生まれる確率)は、採卵翌月にすぐ移植したグループの方が 47.2% と、お休みを設けたグループの 37.7% よりも統計的に高い結果でした。
さらに、流産率も、すぐ移植したグループの方が 13.2% と、お休みを設けたグループの 24.2% よりも有意に低かったのです。

 

この研究は、「お休み期間が必ずしも必要ではない」可能性を示す、非常に興味深いデータです。

 

【さらに心強いデータ】大規模な解析でも「すぐに移植」を支持

「でも、研究が一つだけだと少し心配…」と思われるかもしれません。
ご安心ください。さらに心強いデータがあります。

 

同じく2021年に、これまで世界で行われた複数の同様の研究(15研究、合計20,000周期以上)を統合して分析した、より信頼性の高い「メタアナリシス」という研究が発表されました。

 

 

15件の研究のうち、12件の論文では「即時FET」と「延期FET」の生産率に有意な差は認められませんでした 。

2件の研究では「即時FET」の方が生産率が有意に高いと報告されました 。

一方で、1件の小規模研究では「延期FET」の方が生産率が高いという結果でした 。

 

そして、その大規模な解析が導き出した結論は、

「採卵の翌周期にすぐ移植した方が、1周期以上休んでから移植するよりも、生産率(赤ちゃんが生まれる確率)と臨床的妊娠率がわずかに高い」

という、心強いものでした。流産率には差がありませんでした。

 

もちろん、この研究も後方視的な研究をまとめたものであるため限界はありますが、「お休み期間を設ける」というこれまでの慣習が、必ずしも最善ではない可能性を示唆する非常に力強いデータです。

 

【結論】安心して、次のステップへ

これらの結果から何が言えるでしょうか。
それは、「少なくとも、お休み期間を設けないことで妊娠率が下がるという心配は不要で、むしろ成績が良かったり、変わらなかったりするというデータが揃ってきている」ということです。

 

そのため当院では、これらの医学的知見が報告され始めた約3年前から方針を見直し、ほとんどの方に採卵翌月の移植をご提案しています。

 

今回、改めてこのテーマで筆を執っているのは、そのためです。加えて、私自身が知る限り、これとは逆に「1周期あけたほうが良い」と結論付けた質の高い論文は見つけられませんでした。

 

医学的なデータが「急いでも成績は下がらない、むしろ良い可能性もある」と示しており、そして何より「少しでも早く移植したい」と願う患者様のお気持ちを考えたとき、私たちは採卵翌月の移植を自信を持って推奨しています。

 

このような理由から、当院ではホルモン補充周期による凍結胚移植を、採卵翌月に行うことを標準的な方針としています。

 

もちろん、採卵後の生理周期が不安定になりやすい自然(排卵)周期での移植については、ホルモン環境が整うのを待つため、これまで通り1ヶ月のお休み期間を設けるのが望ましいと考えています。お一人おひとりの体の状態に合わせて、最適な方法をご提案しますのでご安心ください。

 

「休まないと妊娠率が下がるのでは…」というご不安は、もう抱えなくて大丈夫です。私たちは最新のデータと、何よりも皆さまのお気持ちを大切に、治療を進めてまいります。

 

ご不安なこと、わからないことがあれば、いつでもお気軽に診察でご相談ください。

 

院長 菊池 卓