体外受精の胚移植は何個まで可能ですか?~2個まで?3個まで?~
胚移植で受精卵を1個ではなく
2個、3個と多く戻すと妊娠率は上昇しますが
多胎妊娠(双子、三つ子)の危険性が増えます。
多胎妊娠の危険性は下記の記事を。
排卵誘発剤を飲んだら卵胞が3つ育ちました。キャンセルですか?
そのため先日発表されました
日本生殖医学会のガイドラインでは
・胚移植は原則として単一胚移植とする
・35歳以上の女性、または2回以上続けて妊娠不成立であった女性などについては、2個胚移植を許容する
としています。
『多胎妊娠をできるだけ避けましょう』
これは日本もアメリカも変わらないのですが
アメリカの方が年齢や胚のステージも加味して
移植個数が許容されております。
下記はASRM(米国生殖医学会)からのcommittee opinionです。
2021年8月号のFertil Sterilから
図の解説です。
予後が良好な患者様において
・PGT-A正常胚は年齢に関わらず1個戻しに制限
・35歳未満は分割胚、胚盤胞に関わらず1個戻しを強く推奨
・35~37歳は1個戻しを強く検討する必要あり
・38~40歳はPGT-Aをしない場合、分割胚ならば3個、胚盤胞移植ならば2個移植する必要がある
・41~42歳はPGT-Aをしない場合、分割胚ならば4個、胚盤胞移植ならば3個移植を計画する必要がある
・予後が良好の基準を満たさない場合は胚の個数を追加する可能性がある
・43歳以上はデータ不十分なため、推奨の制限の個数が出せない
とあります。
論文では他にも
・成績が良い施設は移植個数を減らしてもよい
・しかし、成績が悪いクリニックが個数を増やすことは認めないなど
全体的にひしひしと移植個数を減らし
多胎妊娠を減らそうというメッセージを強く感じました。
ただそれでも前述のとおり
41歳以上には3-4個の胚移植の必要があるとしています。
このことを考えてみます。
34歳未満の患者様の妊娠率66.3%(当院)
・2個戻して2個とも妊娠する確率44.0%
・3個戻して3個とも妊娠する確率29.1%
流産率(10-15%)程度ですので、3個戻すと三つ子があり得ます。
しかし、40~42歳の患者様の妊娠率23.9%(全国平均)
・2個戻して2個とも妊娠する確率 5.7%
・3個戻して3個とも妊娠する確率 1.3%
さらにこれに流産率(30-40%)が加わりますので、もっと低くなります
3個戻しで三つ子はかなり低いと考えます。
43歳以上の患者様はもっと低いです。
多胎妊娠はできるだけ避けるものであり
また生殖医療専門医として
ガイドラインの移植個数の制限は遵守しなければなりません。
ただ移植個数の制限は時代と共に変わっており
3個までとする時代もありました。
現在のものよりももう少しでも
年齢別に個数が許容されたガイドライン
が出ることを望みます。
下記の記事もご参照ください。
院長 菊池 卓
静岡県静岡市の不妊治療専門クリニック、菊池レディースクリニック院長。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医、特定不妊治療費助成事業指定医療機関。刺激周期を主体としたクリニックと自然周期を主体としたクリニックの2箇所に勤務経験あり。患者様のご希望と体質に応じた治療を行っていきます。