排卵誘発剤を飲んだら卵胞が3つ育ちました。キャンセルですか?
今回は卵胞が2つ以上育ったときについてです。
*一般不妊(体外受精でない)の場合です。
クロミッドなどの排卵誘発剤を飲んでいると、卵胞が2つ以上育つことがあります。
反応が良い方ですと4-5個育ちます。
その時に避妊をお願いするときがあるのですが、
患者様にに『なぜですか』と尋ねられます。
理由です。
PCOSの患者さんに排卵誘発を行った論文からの抜粋です。
発育卵胞数の個数別の妊娠率と多胎率の比較です。
2個発育 妊娠率26.0% 多胎率11.7%
3個発育 妊娠率34.4% 多胎率20.0%
4個以上 妊娠率26.3% 多胎率50.0%
卵胞数に比例して多胎率が増加します。
自然の状態ですと排卵は1つで、出産するお子さんは1人です。
人間の子宮の形は1人の胎児を育てるようにできています。
2人以上の胎児を育てることに無理が生じることがあります。
多胎妊娠は、妊娠中の合併症
・切迫早産
・妊娠高血圧症候群
・妊娠糖尿病など
を増やします。
・胎児の周産期死亡率
・神経学的後遺症
も増やします。
不妊治療に専念する前には、NICU(新生児集中治療管理室)や大学病院の周産期センター、総合病院で勤務しておりました。
多胎妊娠の方には、早産予防及び管理目的での1ヶ月程度の管理入院をお願いしてましたし、早産の徴候が見られる方は2~3ヶ月以上の入院をしていた方もおります。
安静入院ですので基本的にはずっとベット上安静です。
(自分は元気なのにずっとベットにいなければなりません。とてもつらいです。)
そして、分娩になっても新生児と母親が離ればなれになってしまうこともあります。
(NICUのベットは人手不足から常に不足しています。他の市や他県からの搬送もありました)
一般的な排卵誘発のキャンセル基準として
『平均径16mm以上の卵胞径が4個以上存在する場合』があります。
3つまでは許容されているのですが、私としてはやはり3つはキャンセルしていただきます。
『原則1つ』を目指しますが、患者さんの状態と希望により2つまでを許容しています。
時間とお金を費やして、通院してもらいました。
キャンセルといわれても急な納得は難しいと思います。
しかし、私としては妊娠することは『ゴール』ではなく、『スタート』だと思っています。
産科、新生児科の進歩に伴い、多胎管理の成績は過去と比べると非常に良いです。
しかし、品胎(3胎)以上はまだまだ大変です。
できれば避けられる危険は避けた方が良いに決まっています。
できるだけ単一卵胞の発育になるような排卵誘発を計画します。
しかし、3つ以上発育した場合にはキャンセルとさせてください。
クロミッドなどの排卵誘発剤については下記記事を
セキソビット、クロミッド、レトロゾールの妊娠率、副作用、飲み方の違い
院長 菊池 卓
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静岡県静岡市の不妊治療専門クリニック、菊池レディースクリニック院長。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医、特定不妊治療費助成事業指定医療機関。刺激周期を主体としたクリニックと自然周期を主体としたクリニックの2箇所に勤務経験あり。患者様のご希望と体質に応じた治療を行っていきます。