セキソビット、クロミッド、レトロゾールの妊娠率、副作用、飲み方の違い

 

排卵誘発剤には種類がある。妊娠率、副作用、飲み方の違い。

※今回は全てタイミングないし人工授精についてです。

排卵誘発剤はその名前の通り

卵胞の発育をしっかりさせて排卵させるものです。

 

基本的には生理が不規則である

排卵障害の患者様に使用しますが

原因不明不妊での治療のステップアップの時にも

使用します。

 

また、生理が順調と申告される患者様の中にも

実際に卵胞計測をしてみると

なかなか卵胞発育しない方もおりますので

そうした患者様にも投与していきます。

 

しっかりと卵胞が育つことはとても重要です。

 

ホームランを打つために大事なことは

いかに多くの打席に立つかです。

打率を上げることももちろん大事ですが

まずは打席に立てなければ始まりません。

卵胞の発育がしっかりない場合は、排卵誘発剤の投与を検討しましょう

 

排卵誘発剤の内服は3種類あります。

セキソビット、クロミッド、レトロゾール(フェマーラ)。

詳細は個別に書きますが

薬の強さは(私個人の感想です)

レトロゾール(フェマーラ)≧クロミッド>セキソビットです。

※ただ、患者様によりかなり変わります。何錠飲むかでもかわりますので、参考程度にお考え下さい。

※また、強すぎると今度は多胎のリスクが増えますので、その点も注意が必要です。

セキソビット

 

 

飲み方

セキソビットは生理5日目より1日4~6錠を5~10日間内服します。

当院では1日6錠を5日間処方することが多いです。

※1日6錠処方ですと患者様に伝えますと

6錠なのに最も弱いんですかと驚かれますが、最も弱いです。

 

副作用

セキソビットの副作用は少ないほうです。

頭痛や発疹などがまれにあります。

クロミッドで問題になる

子宮頸管粘液の減少や子宮内膜の菲薄化及び多胎は

起きにくいです。

 

妊娠率

原因不明不妊の150人の女性で

1周期あたりのタイミングの妊娠率を比較した論文では

セキソビットの1周期あたりの妊娠率は 8.0% (11/137)でした。

他の1周期あたりの妊娠率はクロミッド 4.5%(8/179)と自然(薬なし) 2.5%(8/315)とです。

 

下記は参考論文です。

クロミッド

 

飲み方

クロミッドは生理5日目より1日1~2錠を5日間内服します。

最初は1日1錠で開始し、効果が乏しい場合は2錠に増量します。

1日1錠でもセキソビットより強力です。

 

副作用

クロミッドは排卵誘発効果が強力ですが

代わりに副作用もあります。

 

頭痛や霧視などの視覚症状

子宮頸管粘液の減少や子宮内膜の菲薄化

卵胞が多く育つことによる腹部膨満感や多胎の危険性の増加などがあります。

※子宮内膜の菲薄化は有名ですので、下記に別に取り上げます、

 

妊娠率

原因不明不妊の620人の女性で

1周期あたりのタイミングの妊娠率を比較した論文では

クロミッドの1周期あたりの妊娠率は12.1% (77/634)でした。

他の1周期あたりの妊娠率はレトロゾール 11.1% (36/323) 、アナストロゾール 10.5% (15/143)と自然(薬なし) 7.0%(21/298)です。

 

下記は参考論文です。

クロミッドで子宮内膜が薄くなったら

クロミッドを処方していると

『クロミッドを半年以上使用したが大丈夫なのか』

『薄くなった子宮内膜は大丈夫なのか』

などのご質問を患者様より受けます。

 

下記の論文の内容を引用してご説明しております。

 

論文の要旨は下記になります。

子宮内膜が7mm以下であると生産率が下がる。

 

クロミッド6周期で子宮内膜厚が7mm以下に薄くなる割合は45%

 

クロミッドの投与量と子宮内膜厚には相関がない。

※増量してもそれで子宮内膜がより薄くなるわけではない。

 

クロミッドで子宮内膜が一時的に薄くなっても、ゴナトロピン(注射)に変更すれば問題ない。

※副作用を引っ張るわけではない。

 

・ゴナトロピンの注射は高いので、内膜が薄くならない方はクロミッドの継続を推奨。

※内膜が薄い方は変更する。

 

私の考えです。

2022年の4月以降からクロミッドの扱いが変わりました。

以前は保険適用で安い、効果もしっかりあるため

多少の副作用があってもメインとして使用しておりました。

 

しかし、レトロゾール(フェマーラ)が保険適応となりゴナペン(ゴナトロピン)も費用が下がったため

以前ほどの重要性は無いと感じます。

上記の論文は医療費の高いヨーロッパです。

 

もちろん、伝統のある優れた薬であることは

間違いのないことではあるのですが

気になる点があれば変更を積極的に考えても良いかと思います。

 

下記は参考論文からの妊娠率のグラフです。

 

クロミッドで内膜が薄い時の妊娠率

 

 

クロミッドで内膜が厚い時の妊娠率

 

 

レトロゾール(フェマーラ)

 

飲み方

レトロゾール(フェマーラ)は生理3日目より1日1~2錠を5日間内服します。

最初は1日1錠で開始し、効果が乏しい場合は2錠に増量します。

1日1錠でもセキソビットより強力です。

 

副作用

レトロゾールは排卵誘発効果が強力ですが

クロミッドと違い、半減期が短く

子宮内膜や粘液に対する悪影響はありません。

ただ、頭痛、不正出血などは時折認めます。

めまいや眠気を引き起こす場合があるので車の運転は注意しましょう。

 

妊娠率

原因不明不妊の620人の女性で

1周期あたりのタイミングの妊娠率を比較した論文では

レトロゾール(フェマーラ)の1周期あたりの妊娠率は11.1% (36/323)でした。

他の1周期あたりの妊娠率はクロミッド12.1% (77/634) 、アナストロゾール 10.5% (15/143)と自然(薬なし) 7.0% (21/298)です。

 

下記は参考論文です。

多胎(双子、3つ子)の危険性

クロミッドなどの排卵誘発剤を飲んでいると、卵胞が2つ以上育つことがあります。

反応が良い方ですと4-5個育ちます。

 

その時に避妊をお願いするときがあるのですが、

患者様にに『なぜですか』と尋ねられます。

 

理由です。

PCOSの患者さんに排卵誘発を行った論文からの抜粋です。

 

 

発育卵胞数の個数別の妊娠率と多胎率の比較です。

 

2個発育 妊娠率26.0% 多胎率11.7%

3個発育 妊娠率34.4% 多胎率20.0%

4個以上 妊娠率26.3% 多胎率50.0%

 

卵胞数に比例して多胎率が増加します。

 

自然の状態ですと排卵は1つで、出産するお子さんは1人です。

人間の子宮の形は1人の胎児を育てるようにできています。

2人以上の胎児を育てることに無理が生じることがあります。

 

多胎妊娠は、妊娠中の合併症

・切迫早産

・妊娠高血圧症候群

・妊娠糖尿病など

を増やします。

・胎児の周産期死亡率

・神経学的後遺症

も増やします。

 

一般的な排卵誘発のキャンセル基準として

『平均径16mm以上の卵胞径が4個以上存在する場合』があります。

3つまでは許容されてますが、3つは多いです。

『原則1つ』を目指しますが、患者様の状態と希望により2つまでを許容しています。

 

時間とお金を費やして、通院してもらいました。

キャンセルといわれても急な納得は難しいと思います。

 

しかし、私としては妊娠することは『ゴール』ではなく、『スタート』だと思っています。

できれば避けられる危険は避けた方が良いに決まっています。

 

できるだけ単一卵胞の発育になるような排卵誘発を計画します。

しかし、3つ以上発育した場合にはキャンセルとさせてください。

卵胞が育たない場合は

 

排卵誘発剤を内服しても卵胞が育たない原因の多くは排卵誘発剤の使い方が弱いからです。

 

卵胞がたくさん育つと多胎の危険性が増えるため

どうしても排卵誘発剤は弱めから開始になります。

 

排卵誘発剤を飲んでも卵胞が育たない場合は

まずは、排卵誘発剤の増量や

種類の変更(セキソビット→クロミッド)を行います。

 

ただ、それらを行っても卵胞が育たない場合は

卵巣の薬への抵抗性を下げる卵巣開口術ないし

薬を強くするために注射を連日行っていく

をご提案していきます。

 

なかなか卵胞が育たないと

妊娠できるのか不安に感じられると思いますが

超音波で胞状卵胞がしっかりと見える方であれば

卵巣開口術や注射を連日行えば

ほとんどの方は卵胞が育ちます。

 

卵巣開口術(ドリリング)

 

クロミッドやフェマーラ無効で

AMHなどがかなり高く

ゴナペンなどの注射ではOHSS riskが高くなると判断される場合が対象です。

 

その名前の通り

両側の卵巣に20-40ずつ電気メスで穴を開けます。

 

作用機序は不明なのですが

この手術により自然排卵や

クロミッド内服での排卵が期待できます。

 

欠点としては

手術であり、入院が必要です。

※当院では行えないため、総合病院様にご紹介しております。

注射の連日注射

 

飲み薬だけでは排卵しない場合は

注射(ゴナールエフペン)の自己注射を行うことも選択肢に入ります。

 

以前はある程度の量を通院で注射していましたが

現在は在宅の自己注射で

少量から少しずつ漸増していくのが主流です。

 

保険適応であり

内服と違い、注射は投与量を増やす幅が広いので

排卵するまで投与量を増やせるのが利点です。

 

ただ、欠点としては

・針が細いとはいえ毎日注射はつらい

・保険でも内服と比べると費用が高い

・量の見極めが難しく、通院が増える

※少ないと発育せず、多いと沢山育ってキャンセルに

などがあげられます。

 

前に述べた腹腔鏡下卵巣開口術から行うかは

一長一短ありますので

ご相談して決めていくことになります。

タイミングの費用とスケジュール

方法

 

 

排卵日を狙って性交渉することです。

生理周期が順調であれば、概ね生理の真ん中で排卵します。

生理が順調でない場合、無排卵の可能性があるため

排卵誘発剤(保険適応の飲み薬)を投与し

超音波(保険 1,590円)を行い、排卵日の予測を立てます。

 

スケジュール

 

 

診察は2回程度です。

排卵日の2日前が最も妊娠しやすいです。

 

費用

薬や超音波なども全て保険が使えます。

超音波1回1,590円程度。

排卵誘発剤のクロミッドは1日1回1錠を5日間使用しますが

1錠 約30円なので5日で150円程度です。

 

人工授精の費用とスケジュール

方法、痛みはあるの?

人工授精と体外受精は響きも似ており

なかなかわかりにくいと思います。

 

 

精液を洗浄濃縮し、柔らかいカテーテルで入れるだけです。

所要時間は5分程度。

痛みもほとんどありません。

※子宮卵管造影検査と比較すると痛みはほぼありません。

 

人工というよりかなり自然だと思います。

卵子を体の外に取り出して処置をする体外受精と違い

受精や発育の過程で人為的な操作が全くありません。

 

スケジュール

 

 

診察は3回程度です。

タイミングも人工授精の前後に取ることが可能です。

 

費用

人工授精の自己負担は5,500円程度

薬や超音波なども全て保険が使えます。

超音波1回1,590円程度。

排卵誘発剤のクロミッドは1日1回1錠を5日間使用しますが

1錠 約30円なので5日で150円程度です。

人工授精は年齢制限や回数制限はありません。

 

下記の記事もよろしければ参照ください。

保険適応のタイミングと人工授精の費用とスケジュールについて

 

院長 菊池 卓