スクラッチ(子宮内膜擦過術)の可能性(反復妊娠不成功の方へ)

 

子宮内膜スクラッチとは

子宮内膜を器具でひっかいて、器械的な刺激を与え妊娠率を高める方法です。

子宮体癌検診のイメージです。

 

子宮内膜は刺激を受けると修復の過程でサイトカイン分泌や血管新生が起きます。

共に着床を促進させる効果があるため、より良い着床環境を作るために行います。

 

胚移植を行う前の周期の黄体期に行います。

適用となる方は

反復して着床または妊娠に至っていない方です。

論文紹介

子宮内膜スクラッチは昔から行われており

その効果について様々な報告が出ております。

 

初回胚移植の前に行うことやタイミングの方に

行うことは否定的ですが

反復着床不全の方への有効性を示す報告は多くあり

今回はその中から2つご紹介します。

 

最初に2019年のもので

3回以上の着床不全のある方にスクラッチは有用であると報告しています。

 

 

対象は1回以上胚移植が不成功で胚移植を計画している4施設の304名

RCTです。

移植の前周期の黄体期にスクラッチを行い、翌周期に新鮮胚移植を行っています。

 

最初に全体での結果からです。

 

全体の結果では臨床妊娠率スクラッチあり 44.4% vs なし 38.5%とスクラッチありの方が高かったですが、有意差はありませんでした。

 

さらに着床不全の回数で解析も行っております。

 

 

3回以上の着床不全のある方ではスクラッチあり 53.6% vs なし 31.1%とスクラッチありの方が有意に高い結果でした。

 

他にも彼らは出生前及び出生後のデータも解析しております。

子宮内胎児発育遅延、出生後の体重、奇形率などを調べておりますが

いずれの項目も有意差はありませんでした。

 

2つ目は2021年のもので副作用についても調べております。

 

 

対象は1回目の胚移植が不成功で2回目の胚移植を計画している32施設の933名

RCTです。

移植の前周期の黄体期にスクラッチを行い、翌周期に新鮮胚移植を行っています。

 

結果です。

 

 

有意差はありませんでしたが、スクラッチ群の生児生産率が4.6%高かったです。

流産率に差はありませんでした。

 

さらにスクラッチの副作用についても調べています。

1週間後に電話をして出血や腹痛の有無について聞いています。

 

 

過半数の方は無症状でしたが、残りの方は少量の出血や腹痛を認めております。

 

私の意見です。

私が思うスクラッチの良さは

①検査の結果待ちが無いので、比較的待ち時間が少ない。

特にフローラやERAは遺伝子解析するので結果が2-3週間かかります。

それが無いのは大きいです。

 

②費用が安い。

検査が無いので、その分費用が安くなります。

遺伝子解析は外注ですが非常に高いです。

 

③副作用が比較的少ない。

内膜を擦るので出血や疼痛はありますが、それほどひどいものはありません。

前周期の黄体期に行えば流産率の上昇などもありません。

 

薬の内服も無いので、その点は安心です。

抗生物質や免疫抑制剤の長期投与はそれなりにリスクがあります。

2つの論文の著者たちもスクラッチの良さとしてこの点を上げています。

 

悪い点としては

①前の周期の黄体期に行う必要があるので、1周期が無駄になってしまいます。

移植周期の排卵前にスクラッチをした研究では、流産率が増えることが報告されており

スクラッチを行った周期での移植は行えません。

 

②タイミングの方や胚移植をこれから始めて行う方や1回不成功の方には推奨できない。

今回はご紹介しませんでしたが、タイミングの方にスクラッチを行った論文では

タイミングの方での生産率は上がりませんでした。

また、胚移植の治療成績も着床障害の方で初めて有意差をもって上昇しました。

 

まとめますと

スクラッチは反復着床不全の方には

・比較的待ち時間及び副作用が少なく

・妊娠率の向上が見込めますので

検討してみる価値はあると思います。

スクラッチ(子宮内膜擦過術)は先進医療です。

先進医療とは一言でいいますと

保険に併用できる自費のオプションです。

 

反復して着床又は妊娠に至らない患者様に限りますが

保険での採卵・胚移植と併用することができます。

詳細は下記の記事をご覧ください。

不妊治療での先進医療のご説明 ~タイムラプス・SEET法・2段階胚移植、子宮内細菌叢検査、PICSI~

 

院長 菊池 卓