卵子の老化対策~採卵前のレスベラトロールの内服~

 

レスベラトロールとは

「何か私にできることはありませんか?」

治療がうまくいかなかったときに患者様に尋ねられます。

 

患者様、皆さま本当に努力されており

様々なサプリなども内服されている方が多い印象ですが

抗酸化(卵子の老化)サプリを飲まれている方は少ない印象です。

 

全てのご夫婦に当てはまることですが

加齢に伴い卵子と精子の質が低下することで

体外受精(不妊治療)の妊娠率は下がり

流産率は上がります。

 

体外受精では卵子と精子の質が非常に重要です。

以前より良い精子の選別方法として「PICSI」をご紹介しました。

詳細は下記の記事を

流産率を減らす採卵の精子選別の工夫~特に35歳以上のご夫婦へ~

 

今回ご紹介するのは卵子の加齢に伴う質の低下を

「高齢だから仕方がない」で終わりにするのではなく

少しでも減らすための対策である

レスベラトロールサプリのご提案です。

 

レスベラトロールは

ブドウの皮(特に赤ブドウ)、イチゴなどのベリー類、ココアなどの

植物由来の食品に含まれております。

 

長生き遺伝子と呼ばれるサーチュイン遺伝子の活性化を促進し

ミトコンドリアの合成を促進することで

抗酸化、抗老化作用を示します。

 

心疾患や糖尿病などの

老化関連の疾患の予防に役立つことは

様々な研究で示唆されておりますが、

今回は卵子とレスベラトロールの関係を調べた論文をご紹介します。

論文紹介

 

 

対象は38~45歳64人の計75個の未熟卵子

※通常の採卵を行い、その際に生じた未熟卵子の提供です。

 

未熟卵子をレスベラトロール添加の培養液で培養し

その成熟割合を調べているのですが

最初に高齢のマウスでレスベラトロールの添加量の比較をしています。

 

0.1μM、1.0μM、10μMで比較し、1.0μMが最もより成績でした。

その結果をもって高齢の患者さんの未熟卵子の培養液にレスベラトロール1.0μMを添加し、添加していない培養液と比較しております。

 

結果です。

 

 

レスベラトロール添加群の方が有意に異常な紡錘体及び染色体配列の異常が少なかったです。

染色体配列の異常は体外受精における早期の流産の最も大きな要因を占めます。

 

さらにミトコンドリアの活性も上げる効果があります。

 

 

ミトコンドリアは細胞内に存在し

受精や胚の発生に必要なエネルギーを供給してくれる存在です。

加齢に伴いミトコンドリアでのエネルギー産生が減ることにより

胚の発育が悪くなり、結果としての妊娠率の低下が報告されています。

 

レスベラトロール添加群の方が有意にミトコンドリア活性が高いです。

 

筆者らは結論としてレスベラトロールの可能性として

・ミトコンドリアを補充できること

・異常な紡錘体や染色体配列を減らすこと

を述べております。

レスベラトロールの注意点

移植の時は飲まないようにしましょう

移植の時には子宮内膜が「老化」する必要があります。

子宮内膜は排卵後に脱落膜化という過程を経て

受精卵を迎える準備を整えます。

この脱落膜化の時に老化が必要になるため

老化を阻害するレスベラトロールを内服すると移植の成績が悪くなることが報告されております。

 

ただ、ご安心ください。

レスベラトロールの血中半減期は9~10時間と短いため

採卵日に内服を中止すれば、新鮮胚移植でも悪い影響は与えません。

 

レスベラトロールの影響が子宮と卵巣で違うのですが

お母さんのお腹の中で完成している卵巣と

生理周期ごとに生え変わる子宮内膜とでは老化(時間経過)の扱いが変わるのだと思います。

下記は参考論文です。

 

 

通常量での内服を

高濃度のレスベラトロールの濃度は

逆に細胞生存率の低下を引き起こす可能性があり

また、高容量の内服は

下痢や腹痛、腎障害を引き起こす可能性が指摘されております。

 

これはどんなサプリにも言えることですが

たくさん飲めば飲むだけ効くというわけでは無く

至適投与量があります。

 

内服量と血中濃度の相関から

50mg/日の内服が望ましいと考えますので

増量はしないようにしましょう。

 

院長 菊池 卓