卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の新しい予防法~学会に参加しました~
卵巣過剰刺激症候群(以下OHSSとします)は
採卵のために卵胞を沢山育てることにより
生じやすくなります。
OHSSは重症になると
お腹が張って苦しくなったり
卵巣がねじれて手術をする必要が生じたり
血栓が出来てしまうこともあるため
卵胞を沢山育てるときには
慎重に行わないといけません。
発生機序としては
エストロゲンの上昇やhCGの投与により
VEGFが増えることにより
血管透過性が増えることが要因です。
簡単にいいますと
血管の中の水分が血管の外に出るため
お腹にお水が貯まったり、むくんだりします。
そして、血管の水分が無くなるので
ドロドロして血栓ができやすくなります
お腹にお水が貯まると苦しいですし、
重症化して肺にお水が貯まると
呼吸が苦しくなります。
便秘にもなりやすくなります。
血管に水分がなくなると
血栓ができて血管を詰まらせます。
(脳梗塞やエコノミークラス症候群などです)
卵胞が沢山育って大きくなると
卵巣がねじれやすくなり、運が悪いとねじれます。
ねじれると血流が卵巣に届かなくなるので
放っておくと壊死するため、
手術でねじれを直す必要があります。
そのためOHSSの予防策として
当院では開業時から
卵胞発育が多かった方に
・カベルゴリン(腹水を低下させる目的)
・レトロゾール(エストロゲンを低下させる目的)
・レルミナ(採卵後早期に生理を来させる)
の投与を行っております。
他に血栓の予防として
・バイアスピリンも投与しております。
少し前まではレトロゾールンやカベルゴリンの投与が
多い印象でしたが
レルミナが2019年より発売となったため
レルミナも併用する施設が増えてきました。
下記の記事も参照下さい。
レルミナって何ですか?~セトロタイドとの比較~
現在行われている
第65回日本生殖医学会学術講演会でも
この新しいOHSSの予防方法について発表が
複数の施設よりされております。
全ての施設で共通しているのは
OHSSの発生率が明らかに減少したと
報告していることです。
特にトリガーをhCGなしにすると
生理が4-5日後になり
エストロゲンも速やかに低下し
OHSSをほぼ認めなかったとしている報告
もありました。
実際に私も採卵後の生理が
早く来るのは感じておりますし
生理がくると患者様の自覚症状も
ほぼ無くなる印象です。
PCOSの方で卵胞が30-40個も育つ方もおり
その場合は昔ですとかなりOHSSのriskは高く
実際に入院される方もいたのですが
・トリガーをスプレーのみにする
・新しいOHSSの予防法で
ほぼOHSSの心配は無くなっております。
ただ、トリガーがスプレーのみやhCGの減量を行うと
採卵数、成熟率が悪くなるのも事実です。
採卵数とOHSSのバランスを取りながら
トリガーを決めるのが腕の見せ所でもありますし
再度の採卵時に変えるポイントでもあります。
そこについてはその都度
患者様と相談していくしか有りません。
今後も積極的に最新の知見を吸収できるよう
努力していきます。
院長 菊池 卓
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静岡県静岡市の不妊治療専門クリニック、菊池レディースクリニック院長。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医、特定不妊治療費助成事業指定医療機関。刺激周期を主体としたクリニックと自然周期を主体としたクリニックの2箇所に勤務経験あり。患者様のご希望と体質に応じた治療を行っていきます。