染色体数的異常の胚盤胞は出産に至らない。

 

胚移植を行っても妊娠されない時に

患者様より「原因は何ですか?」と尋ねられます。

 

最も大きな要因は

偶発的な胎児の数的染色体異常です。

 

Franasiak JM,et al.(2014) Fertility and Sterility, 101,656-663 改変

 

上記は女性の年齢別の胚盤胞(胎児)の数的異常の割合です。

年齢が上がることに増えていきますが

若いからと言って全くないわけではありません。

 

数的異常の有無を調べるために行うのが

着床前診断(PGT-A)で

診断結果はA~Dで示されます。

着床前診断についてはこちらの記事を

 

今回ご紹介する論文は

数的異常胚(C判定)を移植した結果を報告した論文です。

 

 

対象者は初回の体外受精を行う402名、484周期。

不育症、卵機能低下、肥満、子宮内膜の菲薄化などがある方は除外。

単一の胚盤胞移植を行っています。

 

この論文の特徴は多施設で盲検化、非選択試験を行っていることです。

 

 

本来ですと着床前診断(PGT-A)を行う時は

上記の図のように凍結する前に生検。

生検した組織を遺伝子解析して、問題なければ移植します。

 

それがこの論文では全例にまず生検。

遺伝子解析はしないで、全例に移植。

生検した組織は凍結して保存。

移植後の臨床的転帰(着床しない、流産、妊娠継続など)が

決定してから凍結した生検組織を融解し、遺伝子解析を行っています。

 

つまりこの論文の患者さん達は生検をしているけれど、生検の結果を知らされないで移植をしています。

 

結果です。

 

 

数的異常胚で妊娠継続(妊娠13週以降を超える場合と定義)ないし出産された方はいませんでした。0です。

正常胚の方は64.7%が妊娠継続ないし出産しています。

 

さらに彼らは

生検をする行為が妊娠継続に悪影響を及ぼすかも検討しています。

 

 

今回の研究の対象者の方と

年齢、BMI、胚の質、子宮内膜の厚さの背景を一致させた群とで

着床継続率(妊娠13週以降も継続)を比較しています。

 

生検の有無では着床継続率に有意差はありませんでした。

※生検をした群の母数には異常胚のかたももちろん含まれております。

 

私の意見です。

元々着床前診断で生検する場所は

胎児になる部分ではなく

胎盤になる部分をしています。

そのため完全に胎児の染色体を反映しているわけではありません。

 

過去の論文で

数的異常と診断された胚の中にも

出産に至る胚があることが報告されており

今回の論文は非常に関心がありました。

 

ただ、今回の結果をみると

数的異常胚(C判定)を患者様に勧めることはとてもできないと考えます。

 

また、胚盤胞への生検が

妊娠継続に悪い影響を与えないということも

今後患者様に伝えていきたいと考えました。

新生児の予後の論文も後日記事にします。

 

なかなか妊娠、出産に至らない患者様の最も大きい原因は、偶発的な胎児の数的染色体異常です。

その診断が可能な着床前診断(PGT-A)が

早く保険になることを祈ります。

 

院長 菊池 卓