クルーガーテストで精子奇形率が高くても人工授精の妊娠率は変わらない。
『クルガーテストで精子の奇形率が高いから、人工授精では厳しいと言われました。』
最近このご相談を良くされます。
まずはクルーガーテストについて説明します。
精液検査のパロメータは主に
・量及び濃度
・運動率
・奇形率
※最近では奇形率は言葉の響きが悪いため、正常形態率と表記します。今回は分かり易くするためあえて奇形率の表記としております。
を見ています。
クルーガーテストは奇形率を詳細にみるものです。
精子は上記の図のように非常に小さく、また動きも速いです。
そのままでは詳細な精子の形態の観察が難しいため
精子を言葉は悪いですが犠牲にして、染色して形態を詳細にみます。
正常形態率が4%未満(形態異常が96%以上)の場合は
顕微授精の方が望ましいとされる検査です。
下記の論文はそれに対して反論したものです。
2021年のFertil Steril Repに掲載されております
クルーガーテストの結果で人工授精後の成績(胎児心拍陽性率)を比較しております。
対象は人工授精を受けた155組のカップル(234の治療周期)
形の判別は個人差があるため、1人のベテランが全ての検査を担当。
前向き研究です。
クルーガーテストの結果の割合です。
正常≧4% 73組 91周期
奇形精子症<4% 107組 143周期
重度の奇形精子症<1% 45組 55周期
奇形精子症の方のほうが正常の方より多いです。
結果です。
妊娠率は正常 6.6% vs 奇形精子症 9.8% vs 重度の奇形精子症 10.9%と
奇形精子症と精子正常のかたでは人工授精の成績に差はありませんでした。
筆者らはクルーガーテストの分類基準が厳しすぎることを指摘しており
クルーガーテストの結果でカップルが人工授精を試みることを排除してはならないと述べております。
私はクルーガーテストを行う施設の勤務経験があるのですが
印象としては今回の論文の結果のように半分以上の男性が異常(精子奇形症)と診断されておりました。
ただ、ここでお伝えしたいのが奇形といいますと
のような派手派手しいものを想像されるかと思いますが
クルーガーテストの正常の基準は厳しく
上記のような頭が少し細長いものも奇形でカウントされます。
以前から学会で形態評価だけでの正常な精子の定義は難しいと聞いており
クルーガーの厳しすぎる基準には疑問を抱いていたのですが
この論文でその疑問は解決できました。
『精子奇形症』という言葉のインパクトはすさまじく強く
患者様を強い不安にさせるため、当院ではクルーガーテストは行っておりません。
また、奇形精子がいると赤ちゃんも奇形になるのではと心配なるかもいるかと思います。
ご心配はいりません。
奇形精子は動きも悪く、受精能力も低いです。
卵子の待っている卵管の最深部までは距離も遠いため、奇形精子は最初にたどり着けません。
以前お伝えしたヒューナーテストもそうですが
患者様を不安にさせることはできるだけ避けるよう
診療を提供していきます。
ヒューナーテストのブログは下記を参照ください
院長 菊池 卓
静岡県静岡市の不妊治療専門クリニック、菊池レディースクリニック院長。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医、特定不妊治療費助成事業指定医療機関。刺激周期を主体としたクリニックと自然周期を主体としたクリニックの2箇所に勤務経験あり。患者様のご希望と体質に応じた治療を行っていきます。