受精卵を育てるために大事な“オイル”をご存じですか
胚(受精卵)の培養(育てること)において“オイル”を使用していることをご存知でしょうか?
これはベビーオイルなどにも使われる無色透明な液体で、胚培養では“ミネラルオイル“と呼ばれています。このミネラルオイルは「培養液を覆うため」に使用されています。
なぜミネラルオイルをかける必要があるのでしょうか?
それは、培養液とその中の胚を保護する目的があります。
ミネラルオイルがなければ、培養液から水分が蒸発し、培養液の状態(浸透圧やpHなど)が変化してしまいます。そのため、この水分が培養液から出ていくことを防ぐ役割をもち、
浸透圧の変化を抑える効果があります。
さらに、胚が産生する生理活性物質の拡散を防止することで、胚発生率などの培養成績の向上が期待できます。
また、空気中には微小なゴミやカビなどの細菌が存在しています。
培養液には胚が成長するための栄養がたっぷり含まれているため、もし細菌が入ってしまえば当然細菌も繁殖してしまいます。ミネラルオイルはこれら外界からの侵入をブロックし、培養液の汚染を防止してくれます。
このようにミネラルオイルは重要な役割をもつ欠かせないものですが、
培養液と直接触れるものですから、その品質は培養成績に影響を与える場合があります。
そのため、使用するミネラルオイルの選択はとても大事な要素になります。
では当院のオイルをこだわりをご紹介します。
ミネラルオイルは同じメーカーでも、粘度の違う種類が販売されています。
粘度が違うと何が変わるのかというと、”物質の通しやすさ”です。なんとなくイメージできるかと思いますが、粘度が高いものほど、物質は通りにくくなります。
低粘度のものは“ウスターソース”くらいのサラサラした感じの液体ですが、
高粘度のものは“サラダ油“くらいの粘り気があります。
ミネラルオイルは水分の蒸発を防ぐとお話しましたが、これは完璧に遮断するわけではありません。オイルで覆っていても、わずかに水分が抜けていることが、培養液の浸透圧の変化によって分かっています。特に、培養庫内の湿度調節をしないタイムラプスインキュベーターは浸透圧の変化が大きいとされています。
ミネラルオイルと浸透圧の変化に関する学会発表があります。
① 粘度の低いオイルを少ない量で1週間培養
② 粘度の高いオイルを多めの量で1週間培養
これらの培養液の浸透圧変化と受精卵の成長を比較する
という内容の発表でした。
結果としては、予想通り②のほうが浸透圧の変化が少なかったそうです。
当院でも、この発表と同じタイムラプスインキュベーターを使用しています。
この発表では、浸透圧の変化が胚の成長に影響を及ぼすことはなかったと述べられていますが、浸透圧が受精卵へ及ぼす影響には諸説あります。
当院では、変化が大きいよりは小さいほうが良いだろうということで、タイムラプスインキュベーターで培養する際には、”高い粘度のオイルを多めに”使用しております。
このように、それぞれの場面に適した培養液や手法を選択できるよう、日々努めております。
培養部より
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静岡県静岡市の不妊治療専門クリニック、菊池レディースクリニック院長。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医、特定不妊治療費助成事業指定医療機関。刺激周期を主体としたクリニックと自然周期を主体としたクリニックの2箇所に勤務経験あり。患者様のご希望と体質に応じた治療を行っていきます。