より良い顕微授精にするために ~当院のICSI~
当院の顕微授精(ICSI)について3つご紹介します。
まず、1つ目に当院では全例ピエゾICSIを行っております。
通常のICSIはインジェクションピペット(卵子の中に精子を送り込むための針)の先端が尖っており、その鋭い針先で透明帯と細胞膜を貫通し卵子細胞質内に精子を入れます。
対して、ピエゾICSIは先端が平らなインジェクションピペットを使用します。
パルス(微細な振動)を加えることで穴を開けて透明帯や細胞膜を通り抜けます。
この違いにどんな影響があるのでしょうか。
①透明帯の貫通
従来のICSIは針先を押し込み、透明帯を貫通します。貫通できるまで押し込み続けるため透明帯が硬い場合などは細胞質にまで圧力がかかる場合があります。ピエゾICSIはパルスを加えながら針先を押し込み透明帯をくり抜くため、透明帯の形が変化しないままピペットを押し進めることができるため細胞質に圧力がかかりません。
②細胞膜の破膜
従来のICSIはピペットを細胞質に押し込みピペット内へ吸引することで細胞膜を破るため、破れるまで吸引を続け、破膜ができたらすぐに吸引を止める必要があります。ピエゾICSIは細胞質をピペットで押し込むのは同じですが細胞膜が十分に伸展したところでパルスを加えて破膜します。そのため、吸引の必要がなく細胞膜の状態(硬さ等)の影響が少ないとされています。
③精子の注入
破膜の方法が違うため精子注入時の培養液量が変わります。従来のICSIは破膜の時に一度吸引しているので精子がピペットの奥まで吸い込まれます。そこから精子を細胞質内に入れようとすると吸引した分、ピペット内の培養液も入ってしまいます。ピエゾICSIは精子をピペット先端に留めたまま細胞膜を破ります。精子の注入はピペット先端の精子を出すだけで済むため細胞質に入る培養液の量は最小限になります。
このような違いからピエゾICSIは従来のICSIに比べると卵子にやさしいICSIとされます。
ICSIをしても受精率が悪い、特に卵が変性してしまう場合に有効と考えています。
実際に2020年の生殖医学会で従来法とピエゾの2種類の顕微授精を比べた発表がありましたので報告します。
オガタファミリークリニック 緒方 洋美先生
授精率:従来法に比べPIEZO法が↑(高授精率)
変性率:従来法に比べPIEZO法が↓(低変性率)
40歳以下では有意な差がみられ、
41歳以上では有意な差ではないものの、ピエゾ法が良好な結果となっていました。
2つ目に当院では専用のレンズを使いICSI時に紡錘体観察を行います。
紡錘体とは、細胞分裂の際に遺伝子を含む染色体の分配と配置の役割を持つ構造体です。
従来、紡錘体は極体の下にありICSIを行う際は極体付近を避けて実地すればいいと考えられていました。しかし極体から離れた位置に存在する場合があることも、この紡錘体観察によって分かっており、従来法では紡錘体を傷つけてしまう可能性があります。そのためこの観察を行うことで受精率の向上が期待できると考えています。
紡錘体観察なしの場合
紡錘体観察ありの場合
最後に精子の探し方です。
受精は卵子のちからだけではできません。
一般的に運動性・形態の良好な精子を選び、ICSIに用います。ただ、これだけで精子の機能性を評価するのは難しいため、当院では精子の成熟度も精子を選ぶ1つの判断材料としています。
成熟度を見るために、当院ではヒアルロン酸を含む培養液を使用します。
成熟した精子にはヒアルロン酸と結合する性質があることが報告されており、その特性を利用することで精子の成熟を判別しています。
見分け方ですが、培養液の境界線で動きが弱くなっている精子はヒアルロン酸に反応している為、成熟した精子と考えられます。一方、境界線まで届いていない精子は運動性が弱く、越えて動き続けている精子は未熟と判断して、状態の良い精子を選びます。
1.ピエゾICSI 2.紡錘体観察 3.精子の成熟度 この3つを当院では取り入れております。
卵子にとってより良い顕微授精を常に探究していきたいと思います
培養部より
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静岡県静岡市の不妊治療専門クリニック、菊池レディースクリニック院長。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医、特定不妊治療費助成事業指定医療機関。刺激周期を主体としたクリニックと自然周期を主体としたクリニックの2箇所に勤務経験あり。患者様のご希望と体質に応じた治療を行っていきます。