胚をどうして凍結するの?
体外受精を考えている方は「採卵をしたらすぐに移植をしたい」と思われる方がほとんどだと思います。
しかし、多くの不妊治療施設で胚凍結が行われ、年々凍結胚による移植件数は増加しています。胚を凍結する理由やメリットを挙げていきます。
①子宮の状態を整えて移植ができる
妊娠するためには厚みのある子宮内膜であることが重要です。
しかし、採卵周期では卵胞を育てるために使用する薬(排卵誘発剤)の副作用として子宮内膜が育ちにくくなります。そのため、採卵周期では移植を行わず凍結を行い、次周期以降に内膜を整えて移植を行うことが出来ます。
②多胎妊娠のリスクを減らす
通常は1個の卵胞のみが排卵しますが、排卵誘発剤を使用すると卵胞が複数発育し、複数個採卵される場合があります。
状態の良い胚が複数個発育したとき、凍結を行わずにすべて移植を行うと多胎妊娠の可能性が高まってしまうことから、採卵周期に移植を行うとしても原則1個のみとなります。
③一度の採卵で複数回移植が行える
せっかく良好な胚が何個か育っても、②の理由から採卵1回あたり移植できるのは1回だけとなるのは何度も採卵を繰り返すことに繋がり、患者様の負担が大きくなってしまいます。
良好胚が複数あったら、そのままの状態で凍結保存しておくことで、もしも初回の移植で残念な結果だった場合や2人目3人目のお子さんを希望されたときにその胚を移植することができます。
④卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の重症化を防ぐ
OHSSは排卵誘発剤を使用し、卵巣が過剰に反応した場合に起こり、卵巣の腫れや腹水が溜まる症状を言います。この状態で妊娠すると重症化の可能性が高まるため、卵巣刺激を強く行った場合には、移植を行わずに凍結となります。
最後に胚凍結の原理について
胚の細胞の中には水分が含まれており、培養している状態のまま冷凍すると、細胞中の水分が氷になってしまい細胞を傷つけてしまいます。
そのため、実際に胚を凍結するときには12~15分間、凍結液と呼ばれる液に胚を浸し、細胞内の水分を抜いて凍結液を細胞中に置き換える操作を行います。置換を十分に行ったら液体窒素(-196℃)の中に入れます。急速に温度を冷やすことでこれも氷の形成を防ぎます。
凍結・融解(凍結した胚を元の状態に戻すこと)の一連の操作は多くの不妊治療施設が行っており、その生存率は98~99%といわれています。
胚凍結はこれらの理由から非常にメリットの多い方法であると考えています。
培養部より
—–静岡県静岡市の不妊治療専門クリニック、菊池レディースクリニック院長。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医、特定不妊治療費助成事業指定医療機関。刺激周期を主体としたクリニックと自然周期を主体としたクリニックの2箇所に勤務経験あり。患者様のご希望と体質に応じた治療を行っていきます。