胚盤胞のグレードは妊娠・出産に関係ある?それともない?
目次
ある患者様からは『CCでも出産に至るときもありますよね。廃棄するのはいかがなものかと思います』といわれ
別な患者様からは『保険で胚移植回数が限られているますよね。Cのついた胚を凍結するのはいかがなものかと思います』といわれ、板挟みの毎日を送っています。
この問題は難しいです。
なぜなら両方とも正解だからです。
ただ、グレードの悪い胚は皆様が思っているよりも出産率は高く、無事出産されればその後は変わりません。
胚盤胞のグレードとは
胚盤胞は上記のように評価されます。
AAが最も良く、CCが最も悪いです。
※1~6の数字は気にされないでください。
4を6まで育てることは簡単にできるのですが、3~4の方が凍結させやすいです。
そのためにあえて3~4の段階で凍結させています。
グレードと出産率の関係
上記の論文は
対象は単一胚盤胞移植を受けた1018人、10964周期の胚盤胞を下記に分類。
・良好(AA,AB,BA)
・中程度(BB)
・グレードの低い(Cがつくもの)
出産率と周産期予後を比較しています。
結果です。
出産率は良好(44.4%) vs 中程度(38.6%) vs グレード低い(30.2%)と良好とグレードの低いには有意差を認めました。
また、CC胚を超低グレードとし、出産率が13.7%でした。
出生時の体重や早産率に有意差はありませんでした。
上記は彼らの作成した年齢ごとの胚盤胞グレードの予測出産率のグラフです。
私個人の感想になるのですが
思っているほどの差は無いと感じました。
おそらく皆様もそう思われるかと思います。
実際に患者様と話していても
良好胚で無いとほぼ妊娠しないと思っている方も多い印象です。
AAで無いと不安になるのはわかるつもりです。
ただ、受精して、そこから発育して、胚盤胞になるだけで十分にすごいことです。
今回の論文が示しますように、思っているほどの差はありません。
菊池レディースのBCの臨床妊娠率は43.9%
私たちは、患者さんの不安を和らげ、前向きな治療をサポートすることを第一に考えています。その取り組みが、体外受精の高い妊娠率につながっています。
当院での凍結胚移植1回あたりの臨床妊娠率は、全国平均を上回る54.5%という実績があります。
特に、胚盤胞のグレードがBCであっても、当院の治療成績は良好です。グレードBCの凍結胚移植1回あたりの臨床妊娠率は43.9%に達しており、インターネット上の情報で見られる低い数字とは一線を画しています。
この結果は、当院の高度な移植・培養技術によって、グレードが必ずしもすべてではないことを示しています。この実績が、治療に臨む皆様の希望となれば幸いです。
下記記事も参照ください
体外受精の治療成績ご報告(胚移植1回あたり臨床妊娠率54.5%)
胚盤胞のday5 day6 day7の妊娠率は?
胚盤胞は日々成長し大きくなりますが
十分な大きさまで発育したところで
凍結します。
この十分な大きさになるまでに
5日間かかるとday5胚盤胞
6日間かかるとday6胚盤胞
と呼びます。
day5の方が成長が早いため
妊娠率は良いです。
ではどれぐらい違いのでしょうか
それらを調べた論文を紹介します。
対象は着床前診断を行い、正常胚の単一胚盤胞移植をした1182周期。
平均年齢は37.2±4.0歳。
胚の生検をした日をday5,day6,day7にわけて
妊娠率や流産を比較しています。
結果です。
day5胚とday6胚の妊娠継続率と流産率に有意差は認めませんでした。
day7胚は着床率が低く、流産率も高かったです。
私の考えです。
「day6胚で凍結しました」と患者様にお伝えすると
「day5胚では無いのですね、day6胚で大丈夫でしょうか」と心配されます。
ご不安なお気持ちはもっともです。
ただ、day5胚とday6胚の関係は前述のグレードと同じです。
すなわちday6胚は皆様が思っているよりも妊娠継続率は高いです。
凍結出来る段階の胚盤胞までしっかりと育ったことはすごいことです。
ぜひ、信じていただければと思います。
グレード別の正常胚の確率は?
また前述の論文の
グレード別の正常胚の確率です。
全ての年齢において胚のグレードと正常胚の確立に相関関係がありました。
グレードが悪いと出産に影響するのか
グレード4BCの胚盤胞を移植して
卒業された患者様より
「妊娠したことは嬉しいのですが、グレードの悪い胚盤胞だと赤ちゃんの発育が心配です。」
とご質問を受けました。
今回ご紹介するのは
胚盤胞のグレードと
産科転帰(早産や出生時身長・体重など)
の関係を調べた論文です。
※性別についても調べていますが、今回は触れません。
対象は単一胚盤胞移植で妊娠、出産された4,842人の女性。
16の施設からのデータをまとめ、
胚盤胞グレードと産科転帰を検討しております。
結果です。
早産(8.3%)に有意差はありませんでした。
出生児体重(平均3461.7g)に有意差はありませんでした。
出生時身長(平均51.6cm)はTE(後ろのABC)グレードCがAよりも0.4cm長く、有意差がありました。
しかし、筆者らは出生時の長さは1cm単位で測定するものであるため気にしなくてよいと述べております。
筆者らはこの研究で胚盤胞のグレードにより
・早産のriskが変わらないこと
・身長や体重が臨床的に重要なほど変わらない
ので患者さん及び医師、培養士も安心していいのではと報告しております。
私の意見です。
グレードの良い胚ほど妊娠率は高いです。
ただ、あくまで高い傾向にあるだけです。
AAで妊娠しなかったのにBCで妊娠したというのは、何回も経験しております。
グレードが悪い胚というと
まるで生まれてくる赤ちゃんのグレードも悪いように感じでしまいますが
決してそんなことはありません。
グレードが悪かったけど
無事妊娠出来てラッキーだった
以外の事は特に思わなくて良いのではと思います。
私もこのブログを読んでくださっている皆様も
胚盤胞の時はBCだったかもしれません。
どうか気にせず、楽しい妊娠生活をおくっていただければ幸いです。
「胚盤胞のグレード、day5・day6は妊娠率や出産に関係ある?それともない?」は
関係が無いわけではないけど、思われているほどは関係なく、また出産後は関係ないです。
とお答えしております。
院長 菊池 卓

静岡県静岡市の不妊治療専門クリニック、菊池レディースクリニック院長。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医、特定不妊治療費助成事業指定医療機関。刺激周期を主体としたクリニックと自然周期を主体としたクリニックの2箇所に勤務経験あり。患者様のご希望と体質に応じた治療を行っていきます。